COLUMN

ピラミッドのこぶたたち ~ニュルンベルク・シュピールヴァーレンメッセ2001の土曜日のできごと~

ヨハン・リュッティンガーゲームデザイナー

ドライマギア社のブースは良いムードでした。アレックス・ランドルフがウィニング・ムーブズ社のパートナーと一緒に、この数ヶ月で何があったか、彼のアイデアはどうなっているのかを確認するために立ち寄ってくれたのです。

私たちは喜びました。アレックスは少し疲れているようでしたが、実際病み上がりでした。長い間入院していたのですが、大手術を運良く乗り越え、その後初めてボードゲームの世界に戻ってきたのですから。「外科医は芸術家だった」この件で彼が話したのはそれだけです。ヴェネツィアの自宅では、みんなに「旅行はやめたほうがいい」と勧められたのに、それでもやって来たのです。私が日本の輸入代理店の人とつたない英語で『ガイスター』新版について交渉している間、彼はしばらく休んでいて、興味深そうに聞いていましたが、後から私に尋ねました。「今、何語でしゃべっていたのかい? 一言も理解できなかったよ。」彼のユーモアはまだ健在でした。久しぶりに彼に会えてうれしい、また元気になるだろうと思いました。

日曜日の夕方には、例年通りレストラン「プリズン・サン・ミッシェル」に集合することになっていて、アレックス以外みんな揃っていました。その夜、青いライトが点滅する「ピラミッド」(ニュルンベルクの診療所)に入院したとは思いもよりません。翌日になって、ミシェル・マチョス、レオ・コロヴィーニ、ダリオ・デ・トッフォリから、ホテルでの状況がいかにドラマチックであったかを聞かされました。数分のことだったそうです。集中治療室の医師は心臓発作について話しており、妻のカティ、ミシェル、レオ、ドミニクと一緒に月曜日なってやっと見舞いに行きましたが、それはとても静かなものでした。機械と管につながれたアレックスは、気の利いたことを言って場を盛り上げようとしますが、気が滅入るようです。この先どうなるのでしょうか?

続けましょう。アレックスはヴェネツィアに帰りたがりました。医者は反対です。「到着時に死体になっていたければ、飛行機でも車でも行っていいんだぞ」という言います。10日後、手術の数日前、アレックスはエルランゲンの心臓クリニックでバイパス手術に同意していましたが、私が訪ねたとき、どの出版社も興味を持たないというキッズゲームの話をしてくれました。私は興味を持ちました。これまで私たちは、すでに誰も欲しがらないようなゲームをいくつか出版してきたのです。アレックスはフェアで見本を見せた出版社に電話をかけて返却させました。試作品が見つからなかったからです。
「死刑にする理由はただひとつ、」電話口でアレックスが楽しそうに言うのを聞いたことがあります。「それは、出版社がゲームデザイナーのサンプルをなくしたときだよ。」その後、彼は2つの見本を作っていたことを思い出して、家に電話をかけてきたのです。

その見本はちょうど手術の日に届きました。組み立て式のレーストラック、小さくてカラフルな木のコブタ、ダイス、木のコマ少々、短い説明書、それが小さな箱の中身でした。試してみました。これはいい! シンプルでいい!

同日、ドイツ年間ゲーム大賞の審査員から手紙が届きました。「出版社の皆さんは、新設されるキッズゲーム大賞にふさわしいゲームを送ってください」ですって!

その時点で〆切まで5週間弱。
2日後、私が審査に間に合うようにゲームを完成させる計画を話すと、アレックスは「それは無理だよ」と言いながら、「でも、とにかくやってみよう」と、まだ険しい表情と静かな声で付け加えました。

木製コマと特殊ダイスの納期は、通常8~10週間以上かかる見込みでした。それに、箱のグラフィック、イラスト、ゲームボード、説明書、写真、印刷、箱詰め、配送など、本当はどれも無理なことでした!

1週間後、アレックスはピラミッド診療所に戻り、体調も日に日に少し良くなっていました。そこで私たちは始めたのです。やっとできるようになった共同作業す。物事が早く進むのはエキサイティングなものです。ほぼ毎日、診療所でミーティングをしました。サーカスのこぶたの物語ができました。イラストレーターのロルフ・フォークトは、何度も何度も新しい絵を描いて病床にやってきますが、アレックスはそう簡単には満足せず、絵とテキストが本当に調和するまであきらめません。ローレンツ社は積み重ねられるこぶたコマをわずか4週間で仕上げてきました。品質は完璧でした。箱や部品も予定通り完成しました。すべてがうまくいって間違いが起こらないのは、ただただ信じがたいことでした。配送が始まり、『こぶたのおんぶレース』ができあがりました。でも審査のためには発売されていなければなりません。信頼できる販売店には、事前に断りなく1カートンずつ送りました。こうしてゲームが発売され、素敵な物語が始まったのです・
「大賞を取れるなんて思うなよ! 期待しちゃダメだ!」とアレックスは最後まで言い続けました。結局、彼の言うことを聞かずに信じるべきだったのかもしれません。
少なくとも密かには。

ヨハン・リュッティンガー