COLUMN

プロトタイプとゲームの発明について

ニュルンベルク・シュピール・アーカイブの記事を翻訳したものです。

アレクサンダー・ランドルフ、ヴェネツィアのアトリエにて。写真:アルベルト・ベビラクア
アレクサンダー・ランドルフ、ヴェネツィアのアトリエにて。写真:アルベルト・ベビラクア

どんなゲームも、デザイナーから出版社、ショップを経てプレイヤーの手に渡るまで、長い道のりを歩みます。デザイナーと出版社の編集者が集中的に議論することで、元アイデアにできるだけ近く、しかし同時に大衆に受け入れられるようなゲームに仕上げる必要があるのです。この開発プロセスには、コンテンツのアイデアからゲームボードのグラフィック、コマの素材、ゲームボックスのデザインに至るまで、すべてのゲーム要素が含まれます。ゲームによっては、デザイナーが出版社に提出したプロトタイプと、最終製品がほとんど別物になることもあります。

プロトタイプは本来、ゲームのアイデアを可視化するためのものであり、実験の場でもあります。ゲームボードのバランスを取り、駒の形状と数を合わせ、手番を何度もチェックしなければなりません。アレキサンダー・ランドルフの遺品には100を超えるプロトタイプが含まれていますが、そのすべてが最終的な発売に至ったわけではありません。彼の草案のほとんどは、考え抜かれたルールで完成されたものです。同じ仕掛けやメカニクスが複数のゲームに登場することもあり、ゲームによっては複数の草案やプロトタイプが存在し、それぞれの段階での思考の経過が反映されています。遺稿の中には未完成のプロトタイプや逸失した用具も少なくありませんが、これはランドルフの無尽蔵ともいえる創造性が最期まで続いていたことを示すものです。

すでにプロトタイプから、ランドルフは入念に美しいデザインを重視していることがわかります。日本にいるときから木彫家と一緒に仕事をし、『トポロトイ』のような木製の図形パズルを開発していました。ヴェネツィアでは木工職人アンジェロ・ダラ・ヴェネチアとの密接な連携によって自由な形状を作れるようになり、美しいコマや高級感のある木製ボードで自分のアイデアを形にすることができました。こうしてランドルフの作品と遺品に独自の顔が与えられたのです。

『トップシークレット!』のゲームコマを製作するアレクサンダー・ランドルフと木工職人アンジェロ・ダラ・ヴェネチア
『トップシークレット!』のゲームコマを製作するアレクサンダー・ランドルフと木工職人アンジェロ・ダラ・ヴェネチア

ランドルフは、自分のゲームの仕上がりに必ずしも満足していませんでした。しかし、高価すぎるゲームや抽象的すぎるゲームは、採算が合わないということもわかっていました。それでも「長期的な成功を目指すゲーム出版社は、デザイナーとその作品を、父親が子供を見るようにしなければならない。十分なお小遣いをあげるだけではダメで、一つひとつに心を込めて、丹精を込める必要がある」と戒めていました。

ランドルフのゲームアイデアは最小限です。一見すると、抽象的で戦略的な印象を与えるため、必ずしも「大衆向け」ではないのが普通です。しかし、彼のプロトタイプは特にエレガントで、しばしば遊び心のあるウィンクを添えられています。特に手稿やアイデア集には、シンプルで遊び心のある楽しさが感じられます。彼は、何かをつなげること、新しいルートを探ること、迷宮をデザインすることが大好きでした。

ランドルフのゲームは高い戦術性がほかにない特徴です。チェス、そして将棋に魅せられていたランドルフは、戦場での戦略的な対決を高く評価していました。愛好者の間で有名な『ツィクスト』は、彼が子供の頃から大好きだった馬跳びをモチーフにした2人用競争です。
ランドルフの芸術は、古典ゲームのゲーム原理を、巧妙な仕掛けで新しいゲームに作り変えることにありました。そこから生まれたゲームは、明確な基本アイデアに基づいています。それは「ゲームボードとコマはシンプルで、手番の選択肢は少なく、ルールは短くわかりやすいこと」。このシンプルさが『ガイスター』『テンポ、カタツムリ!』『ハゲタカのえじき』といったミニマムなゲームの秘密なのです。
その一方、ランドルフはポーカーが大好きで、そのためブラフをかけるのが好きでした。自分の正体を隠し、相手を闇に葬り、敵を欺くという盤上の戦術的な駆け引き。これは『インコグニト』『トップシークレット!』『それだっ!』などのゲームに顕著です。

それでもランドルフにとって最も大切なのはルールでした。ルールなしにはゲームなし。彼は戦術的なゲームであっても、ルールをできるだけ短く、簡潔に、シンプルにすることを重視していました。ルールから楽しさへのハードルは低いものであるべきです。とはいえ、ゲームには公平性のためにルールが必要です。人生と違って私たちはただ自発的に、ある一定の時間だけルールに従うのです。「人生にはない公平性がゲームにはある」と信じて。

また、彼は童話・歴史・美術を借用することで、ファミリー層やカジュアルゲーマーにも親しみやすいゲーム作りを心がけました。特に『ドラゴンの岩』(レオ・コロヴィーニ)、『紫禁城』(ヨハン・リュッティンガー)、『ウアガ・ウアガ!』(ハヨ・ビュッケン)などの共同作品は、その傾向が顕著でした。
ランドルフの最大の成功は、ドイツ年間ゲーム大賞を受賞した『ザーガランド』に負うところが大きいです。ミシェル・マッチョスとの共同作品で、いばら姫の城「ザバブルク」を舞台にし、『王様はもういない』という仮題で開発されました。現在までにこのゲームはミリオンセラーとなり、多くの言語に翻訳されています。

Deutsches Spielearchiv Nürnberg: Von Prototypen und vom Spieleerfinden
https://museen.nuernberg.de/index.php?id=2035

出典元:ドイツ・シュピールアーカイブ・ニュルンベルク
(Deutsches Spielearchiv Nürnberg)

研究・資料センターとして、1945年から現在までの3万点を超えるボードゲームのユニークなコレクションを保存しており、「ゲーム業界の記憶」といえる存在となっている。
メインである資料収集に加え、家庭や社会におけるゲームの普及活動も行っている。定期的な午後のゲーム会や館外活動など、数多くのイベントを開催し、文化財としてのボードゲームやボードゲームを遊ぶことを積極的にアピールしている。